待ちに待った、北朝鮮に潜入する日がやってきた。
このように書き出すとあらぬ誤解を与えるかもしれないので最初に断わっておくが、僕は共産主義者ではない。ましてや北朝鮮が好きだということでもない。
ただ北朝鮮という国をこの目で見ておきたいのである。
北朝鮮は自由に旅することはできない。
専属のガイドをつけることが義務付けられ、移動はすべて専用車だ。
外国人が宿泊するホテルも、最上級の「特級」クラスのホテルと指定されている。特級とはいえ、あくまで現地の基準というのがミソなのだが。
訪問できる場所も限られ、旅程はあらかじめ伝えておいた希望を元に組まれている。
そのため北朝鮮を体験できるとはいえ、偏った部分、それも北朝鮮社会の最も良い部分しか見ることはできない。
それでも北朝鮮人のガイドとの交流を通して、現地の人の考えやその論理、またどのような教育(洗脳)を受けているのか、など新しい発見があるはずである。
また北朝鮮にとって2012年は建国の父で神格化されている金日成の生誕100周年にあたり、『強盛大国』元年を標榜している。
北朝鮮が誇る巨大マスゲーム『アリラン』も名目上は今年が最後になるとの噂もあり、どうしても2012年中に北朝鮮の生の姿を確かめておきたかったのだ。
日本との国交がない北朝鮮のこと、もちろん直行便などない。
国際便は北京やウラジオストクから飛んでおり、北京からは国際列車で平壌まで行くこともできる。陸路の旅を愛する私は今回も陸路での入国を予定していた。しかし旅の直前に起こった洪水により国際列車の運行が一時的に停止し、急きょ北京経由で航空機を使って入国することとなった。
航空会社は北朝鮮の高麗(コリョ)航空である。事故率はおそらく世界最悪水準、スリル満点の往路となるだろう。
ビザは北京空港の高麗航空カウンターにて手渡される。
カウンターに行くと、すぐ横に一人の北朝鮮女性が立っており、ビザを受け取りに来た旨を伝えると、少し待たされた後、ビザをどこからか持ってきて渡してくれた。
待ち時間が少し長いためビザが無事に受け取れるのか不安になっていたところ、彼女が「Dont worry」とこまめに気遣いしてくれたのは意外だった。
ビザを入手し、高麗カウンターでチェックインを済ませ、出発ゲートの待合スペースで待機する。
ぞくぞくと北朝鮮人が集まってきた。彼らは胸に金日成か金正日の肖像バッジをつけているため一目で北朝鮮人とわかる。ここへきて、北京を発った後は再び北朝鮮を出国するまで命運を握られた数日を送るのかと強烈な不安がこみ上げてきた。引き返すなら今が最後のチャンスである。
そんな不安と闘っていると航空機までの送迎バスが到着した。とうとう出発のときがやってきたのだ。
バスに乗り込んだ。周りは北朝鮮人だらけである。中にはバッジをつけていないアジア人もいる。中国人だろう。僕もまさか日本人とは思われていなかったに違いない。他にはナイジェリア人の一家もいた。
航空機に乗り込んだ。
果たして北朝鮮は地上の楽園か、それとも?(笑)